感想文9冊目『いでおろーぐ!」が今のところ暫定1位と感じた3つのポイント
第21回電撃小説大賞銀賞受賞作。
・・・やられた。
ちきしょう、面白いじゃないか。
新人のデビュー作がこのクオリティなのか。
世の中、侮れない。
主はラブコメが、それほど好きではない。
なので「反恋愛主義青年同盟」の美少女が「恋愛放棄を叫ぶ」と言うあらすじを読んだ段階で、「はいはい、どうせそう言いながら恋愛するんでしょ?」くらいに考え、それほど期待せずに読んだ。
革命闘争のガジェットが面白いと感じたのと、学園もののリサーチをしたいと思ったこと。この2点が読んだ理由であり、つまんなければ途中で次に行く予定だった。
そして見事にオルグされた(笑)
自分なりに、なぜこんなに面白いと思ったか、整理しておこう。
その1、主人公へのスムーズな感情移入
主は少し反省している。
ラノベの主人公(男)は、あくまで主要キャラ(女)の狂言回しであり、物語の進行上は必要であるが、まあ、それほど重視すべきものではないと思っていた。
しかしその考えは改める。
主人公、大事だわ。
主人公は、読者にとって、ラノベという異世界の「目」の役割を果たすのだが、本作の主人公は実に居心地が良い「目」なのだ。あまり目立ちたくない、そこそこかっこいい少年という点では『ようこそ実力至上主義へ!』の主人公とたいさないが、あっちは読んでいてイライラしたのに対し、こっちは実に楽しい。
それほど尖ったキャラ設定でもないし、切れ者でもない小市民だけど、根はいいやつだ。こんな程度でしか表現できない主の筆力がもどかしいが、美少女がいなくても、この主人公でご飯4杯はいける。
「あるある」「その気持ちわかる」
という男ゴコロに、すごく寄り添っているのだ。だから無理なく受け入れられる。
(ちなみに「」「」を縦に連続で使うのも、この著者のテクニックのようだ)
主人公の男の、いわばMC力によって作品の印象が変わるんだな。
この点の共感度というか、世界への入り込みやすさはピカイチだ。
その2 奇抜ではなく意外なストーリー
いや、基本的には当初の予想どおりなんだよ。
「反恋愛主義」と言いつつ、やっぱり恋愛するのは。
でも、話の展開がなかなか面白くて、「え、どうなるの?」と、ついついページをめくってしまう。これはうまい。
ネタバレになるが、途中で神様(JSの姿)が出てくる。
その段階で一度本書を放棄しようかと思ったけど(まじで)、実に自然な形で馴染んでくるのだ、これが。いや不思議。
で、主人公はヒロインの「反恋愛主義」運動の同志となりつつ、実は神の手先となってその運動を阻止するためにヒロインを恋愛に陥らせる工作員となる。
主人公も「よくわからなくなってきた」とぼやくのだが、この入り組んだ展開が、なぜか無理やり感がなく、コミカルに楽しく読める。
反恋愛の革命運動に身を焦がす美少女とJSの神様との対決なんて、まあ、飛び道具だ。
それを使えば「一発ネタ」としては楽しいかもしれないが、普通は途中で破綻するか、飽きる。
本作が秀逸なのは、それらがうまくビルトインされており、世界観に飽きたり破綻したりするどころか、むしろ「え、そう来るの?」「どうなるの?」と引き込まれるところ。
飛び道具をぶっ放して終わり、ではなく、それをうまく使っているのだ。
その3 仕事が丁寧
結局、主人公が魅力的なのも、ストーリーに引き込まれるのも、
作者がこの作品を非常に繊細に、丁寧に作り上げたからだと思う。
話自体は、まあ、本当は大したことがない。
登場人物も、特別魅力的ですごいというわけではない。
でも一つの話として、実に生き生きしていて、生命力がある。
そう感じるのは、話の展開、セリフ、人物描写を、非常に丁寧に書き進めているからではないだろうか。
おそらく、何度も推敲し、完成度を高めていったと思われる。そうでなければ、これだけ「スルっ」とその世界に入ることはできないと思う。
変なヒロイン、変な設定、変な神様が出てくるのに、無理なく読めるのは、相当緻密に文章が考え抜かれているからだと思う。
すごい話をしてやろう。
すごいキャラを考えてやろう。
それも大事だが、もっと大事なこともある。
究極的には「読んでいて心地よい」ことが最強の武器であり、「すごい話」「すごいキャラ」は、読者が求めるものの1つにすぎない。
以上